az(5/5) |
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何人か別の人とすれちがってそれで最後かとかようやく捕まえたのねなんて言葉が聞こえた。
あの人は返事はせずに頭だけ動かして足早に歩いていった。
一体どれくらい経っただろう。
一体何枚ぐらいのドアをこえただろう。
心地よい振動と暖かさで眠気で目を閉じそうになった時に見たこともないような量の光が飛び込んできた。
信じられない光景だった。
どこまでも広がる青い天井と緑の床。
遠くに見える高い三角と嗅いだこともない不思議なにおい。
あっけにとられているとあの人がしゃがみこんでぼくを緑の床に下ろしてくれた。
あの人の方を振り返ってみると目があった。
そしてポケットから板に模様をつける道具を取り出してぼくの首にかかっている板に押し当てた。
それが終わるともう一度ぼくを抱きしめて今にも消えそうな声でこういった。
ごめんね、今更遅いよね。
こんなこと間違ってるって思ってた。
自分たちが助かるために君たちを犠牲にするなんてきっと間違ってる。
だけど私にはみんなを止めるだけの勇気がなかった。
だから結局こんなことになってしまった。
せめてあなただけでも自由にしてあげたい。
きっとみんなも外に出たかったと思うからみんなも一緒に連れていってあげてね…
首の板に手をかけて優しい目のあの人が
そこまで言った時にまた大きな水滴が流れ落ちた。
もうここに戻ってきちゃだめだよ。
今日からは自分でご飯も食べるんだよ。
それから誰にもつかまっちゃだめだよ。
涙でつまりながらそういって、いつもの優しい感触が頭をなでてそして離れていった。
みんなに気づかれる前に遠くに行くんだよ。
最後にもう一度抱きしめられてあの人が立ち上がってドアの方へ歩き始めた。
ぼくもついていこうとしたらあの人が困った顔でこっちを見た。
あの時と同じなんだなと思って足を止めるとあの人は申し訳なさそうにそれでも嬉しそうに微笑んでくれた。
ばいばい、az。
それがあの人の最後の言葉だった。
もう一度ドアが開くのを待とうかと思ったけどあの人の言葉を思い出した。
気づかれる前に遠くにいく、誰にもつかまらない。
それに従ってもしかしたらと思って後ろを振り返りながら歩きだした。
少し離れた緑の大きな棒の下に25個の石と小さな茶色の三角があった。
そこからほんの少しだけどあの人と他のぼくのにおいがした気がした。
あの人がいた部屋が小さく見える距離までいったころにウーといううなり声のような音が響いた。
とどまっちゃいけない空気を感じ取ったぼくは大急ぎでそこから離れた。
あれから今までどれぐらいの時間が経っただろう。
あれから今までどれぐらいの人にすれ違っただろう。
どうしてあれから人と呼ばれる人が倒れていったのだろう。
あの人は今何処で何をしているのだろう。
ただ確かなのは、
ぼくがazという模様の書かれた板をさげているネコで、
大好きなあの人に会いたいと願ってやまないことだけだろう。
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投稿者 r9eifb | 返信 (1) | トラックバック (0)